こんにちは!
フラメンコギター池川です。
レッスンでも、メールでも、いちばん多い相談がこれです。
「フラメンコっぽく弾きたいんですけど、何が足りないのか分からないんです」
クラシックギターを何十年も弾いてきた方。フォークソングが好きな方。J-POPを人前で弾いている方。みなさん、指はちゃんと動きます。コードも押さえられます。
それでも、どうしてもフラメンコの匂いがしない。
この場合、足りないのは技術じゃないことがほとんどです。足りないのは音の選び方です。
今日は、いつも弾いている曲にフラメンコの香りを一滴だけ入れる方法を書きます。ソレアを1曲覚える話ではありません。今すでに弾ける曲を、そのまま使います。
フラメンコっぽさの正体は、たった7つの音
フラメンコの「あの響き」の正体は、スパニッシュスケールです。フラメンコの世界では「ミの旋法」と呼ばれます。
Eから並べると、こうなります。
| スパニッシュスケール | ミ・ファ・ソ#・ラ・シ・ド・レ |
| いわゆるマイナー(Eナチュラルマイナー) | ミ・ファ#・ソ・ラ・シ・ド・レ |
違いは2か所だけです。
ファが半音下がっている。そしてソが半音上がってソ#になっている。
この「ファとソ#が隣どうしで、間が広く空いている」ところ。ここがフラメンコの匂いの発生源です。ここを通るだけで、音が一気にスペインになります。
覚える音は7つです。それだけです。5つのフォームを12キー分覚える、みたいな話はまだ必要ありません。
ついでに、この7音がギターのどこにあるか。じつは6弦と5弦の2本だけで全部そろいます。
| 6弦 開放 | ミ |
| 6弦 1フレット | ファ |
| 6弦 4フレット | ソ# |
| 5弦 開放 | ラ |
| 5弦 2フレット | シ |
| 5弦 3フレット | ド |
| 5弦 5フレット | レ |
低い音のほうが、あの重たい感じは出やすいです。まずはここだけ、親指で順番に鳴らしてみてください。
もうひとつ、理屈が好きな方向けに。このスケールは「ラのハーモニックマイナー(ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ#)を、ミから並べ直したもの」です。だからAmの曲の中に自然に入ってきます。理屈が苦手な方は、この段落は読み飛ばして大丈夫です。
まずはE一発。いつもの進行の最後で試してみる
いちばん手っ取り早いのは、すでに知っている進行で試すことです。
たとえばこれ。
Am - G - F - E
よくある進行です。ここで、最後のEをE7にしないで、Eのまま鳴らしっぱなしにしてください。
それだけで、空気が少し乾きます。
そのEが鳴っている上で、さっきの7音のうち最初の4つ。ミ・ファ・ソ#・ラだけを行ったり来たりしてみてください。
レッスンでも、ここを弾いた瞬間に「あ、これだ」とおっしゃる方が本当に多いです。
もうひとつ、ちょっとしたお得な話があります。
ギターの開放弦は、6弦ミ・5弦ラ・4弦レ・2弦シ・1弦ミ。3弦のソ以外は、全部このスケールの中の音です。
つまりEを押さえたまま開放弦を混ぜて鳴らすと、ほとんど勝手にスペインの響きになります。3弦だけは4フレットを押さえてソ#にしてあげてください。ここがフラメンコギターが「開放弦でジャーンと鳴らすだけでカッコいい」理由です。
「アンダルシア終止」を覚えると、入り口が一気に増える
さっき出てきた Am - G - F - E には、ちゃんと名前があります。アンダルシア終止です。
上から半音ずつ、階段を下りるように降りてきて、最後のEで着地する。フラメンコの曲の、本当にあちこちで出てきます。ソレアでも、ブレリアでも、タラントでも出てきます。
この4つのコードは、着地したあともう一度Amに戻ればぐるぐる回せます。つまりこの4つだけで、延々と弾き続けられるということです。
そしてこの形は、キーを変えても同じ関係で使えます。フラメンコでは、よく使う2つの場所に呼び名があります。
ポル・アリーバ…最後がEに着地する形(さっきのAm - G - F - E)。
ポル・メディオ…最後がAに着地する形(Dm - C - B♭ - A)。
名前を覚える必要はありません。「フラメンコの曲は、だいたいこの2つのどっちかの場所で弾いている」と知っておくだけで、いろんな曲が同じ景色に見えてきます。
そして、さっきのスケールの出番はこの「最後の着地したコード」の上です。着地してから次に動き出すまでの数秒。ここがスパイスを入れる場所です。
でも、音だけでは足りない。フラメンコらしさは4つのスパイスでできている
ここまで読んで「じゃあスケールを覚えれば終わりか」と思われたかもしれません。
実は、ぼく自身がここでつまずきました。スケールを覚えてアドリブを弾いてみたら、どうしてもジャズっぽくなってしまうんです。音は合っているのに、フラメンコに聞こえない。
この話は昔、どこからがジャズで、どこからがフラメンコなのかという記事にも書きました。
いろいろ試して整理した結果、フラメンコらしさは4つの要素に分けられると考えています。
① コード
普通のコードを一味変えます。Fの代わりにベースをミにしたF on E。開放弦を足したまま押さえるAm。響きの選び方です。
② 奏法
右手です。ラスゲアード、ゴルペ、プルガール。同じコードでも、右手が変わるとギターの性格が変わります。
③ リズム
コンパスです。3拍のまとまりと2拍のまとまりが混ざる感覚。これが入ると、同じフレーズが動き出します。
④ メロディ
さっきのスケールです。1音の選び方で景色が変わります。
4つ全部をいっぺんにやる必要はありません。どれか1つに一滴入れるだけで、ちゃんと変わります。
いつもの曲に一滴だけ入れる、3ステップ
では、具体的にどうやるか。ぼくが個別相談でお伝えしている手順です。
ステップ1:曲の中で、いちばんヒマな小節を探す
音を伸ばしているだけのところ。間奏の前。歌が休んでいるところ。そういう「余白」を1か所見つけます。
ステップ2:そこのコードが、EかAmに寄せられるか見る
マイナーキーの曲なら、たいていどこかにEかAmが出てきます。出てこなければ、その小節だけEに置き換えられないか試します。無理なら別の小節へ移ります。
ステップ3:スケールの中の2〜3音だけで、その余白を埋める
ここが肝心なところです。7音を全部使わない。ミ・ファ・ソ#の3つだけで十分です。
これで終わりです。1曲まるごと変えません。1曲に1か所でいいんです。
J-POPでも、歌謡曲でも、ボサノバでも同じようにできます。
よくある失敗3つと、その直し方
個別相談で毎回出てくる失敗があります。先に知っておくと早いです。
失敗1:速く弾こうとしてしまう
フラメンコというと、あの速い連打を思い浮かべますよね。でも、ゆっくりでも音が合っていればちゃんとスペインになります。というより、遅いほうがあの乾いた感じは出やすいです。
失敗2:全部の小節に入れてしまう
うれしくなって、あちこちにスパイスを入れたくなります。でもこれは、カレーにクミンを瓶ごと入れるのと同じです。クドくなって、かえって何も伝わりません。1か所です。
失敗3:スケールを上下に走るだけになる
ドレミファソラシドを上って下りてくる、という弾き方。これが一番「練習っぽく」聞こえます。
直し方は3つあります。同じ音を2回鳴らす。途中で止まる。間を置く。フラメンコは、音を詰めるより「ためる」音楽です。
ちなみに先日、この4つのスパイスの使い方を個別相談でお話しした方が、老人ホームでボランティア演奏をされている方でした。「曲の途中に、フラメンコのスパイスをちょっと入れたいんです」と。そのときのやりとりはこちらの記事に書いています。
▼ 動画でも話しています
スケールを覚えたあと、実際にどうアドリブの形にしていくのか。手元を見せながら実演しています。文章とあわせてどうぞ。
一滴入ったかどうか、5つのチェック
自分の演奏を録音して、聞き返すときのチェック項目です。スマホの録音で十分です。
1.ソ#を鳴らしているか。ここが普通のソになっていると、ただのマイナーの曲に戻ります。いちばん多い聞き落としです。
2.着地したコードを、ちゃんと伸ばしているか。すぐ次に行ってしまうと、スパイスを入れる隙間がなくなります。
3.入れた場所は1か所か。2か所以上あったら、いったん1つに減らしてみてください。
4.止まっている場所があるか。音が途切れなく続いていたら、それは走っています。
5.自分で聞いて「おっ」と思うか。ここがいちばん大事です。理屈が合っていても、自分がグッとこないなら場所を変えたほうがいいです。
5つのうち3つ通っていたら、もう一滴入っています。人前で出して大丈夫です。
おわりに
フラメンコを始めるとき、多くの方が「ソレアを1曲」「アレグリアスを1曲」から入ろうとします。もちろんそれも大事な学び方です。
でも、すでに人前で弾ける曲がある方なら、そこに一滴入れるほうがずっと早いです。明日のステージで使えますから。
全部を作り替えなくていいんです。一滴でいい。
そう思えると、急にハードルが下がる気がしています。
この「4つのスパイス」を、ぜんぶ動画で
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