こんにちは!
フラメンコギター池川です。
ギター1本だけで舞台に立って、お客さんを引き込む。いまでは当たり前に思える形です。
でも、この形をフラメンコギターの世界で初めて成り立たせた人がいます。
ギターを始めた人
池川今日は「知っておきたいフラメンコの100人」の4人目、サビーカスです。少年時代の逸話から、祖国を離れた長い年月、そしてギター1本のコンサートまで、お話しします。
▼ 動画でも話しています
少年時代の面白い逸話から、ロックのアルバムまで、サビーカスの人生をじっくりお話ししています。再生しながら読んでも、先に見てからでも大丈夫です。記事はこの下に続きます。
蓄音機をゆっくり回した少年

本名はアグスティン・カステジョン・カンポス。スペイン北部のパンプローナで、1912年に生まれたと伝えられています。ただ、生まれた年については1907年とする資料もあって、はっきりとは定まっていません。ロマ(ジプシー)の家系に生まれたとされ、幼い頃から音楽に囲まれていたようです。
5歳の頃、近所で弾かれるギターの音を耳で覚えて、独学で弾き始めたと伝えられています。楽器屋さんのウィンドウに17ペセタのギターが飾ってあって、少年のサビーカスは、それを見つけた途端、店の前から動かなくなってしまった、というお話も残っています。
ぼくがいちばん「へえ」と思ったのは、蓄音機の話です。ご両親が買ってくれた蓄音機を、サビーカス少年はわざとゆっくり回したそうなんです。早すぎて聞き取れないフレーズを、遅くして1音ずつ拾って、まねして弾く。いまで言えば、動画を0.5倍速にして練習するのと同じですよね。
早いフレーズで困ったら、スロー再生で練習してみる。100年前からの「お墨付きの練習法」です。レッスンで「ゆっくり弾いて、ゆっくり聞いて」と言うのですが、子どもの頃からやっていたと知って、ぼくも嬉しくなりました。
7歳でパンプローナの式典で人前に立ち、10歳のときにはマドリードの劇場の舞台にも上がったと伝えられています。ちなみにサビーカスはあだ名で、空豆を指す言葉に由来するという説が伝わっています。
内戦、南米、そしてニューヨークへ

10代からスペイン各地を回り、有名な歌い手たちと共演して、若くして名の知れた伴奏者になっていました。ところが1936年、スペインで内戦が始まります。サビーカスは、ほかの演奏家たちと一緒にスペインを離れ、南米へ渡りました。ブエノスアイレスでは踊り手の一座に加わり、数年にわたって南米各地で公演しています。
そのあとメキシコに拠点を移して家庭も築き、1950年代の半ばには、活動の軸をニューヨークへ移しました。ニューヨークは、その後の長い年月を過ごす拠点になります。祖国に長く戻らなかった背景には、内戦とその後の政治体制への複雑な思いがあったと考えられています。
ギター1本のコンサートを成り立たせた

それまでフラメンコギターは、歌や踊りに寄り添う伴奏の楽器として扱われてきました。サビーカスはその常識に挑みます。1959年5月、マンハッタンのタウンホールで、ギター1本だけのフラメンコ・コンサートを開きました。これが、フラメンコギターを独奏楽器として成り立たせた最初の試みのひとつとして語り継がれています。
ギターを始めた人実は、びっくりする裏話が伝わっています。あの日の舞台に立つ予定だったのは、仲間のギタリストのマリオ・エスクデロさんで、急な事情で出られなくなったため、サビーカスが代わりに上がったというのです。エスクデロさんの息子さんがそう語っていると伝えられています。当時は、出られない仲間の代わりに舞台に立つのはよくあることだったそうです。歴史を変えたステージが、実は代役だったかもしれない。人生、何がきっかけになるか分かりませんね。
このエスクデロさんとは、2人で組んだギターデュオのレコードもたくさん残しています。サビーカスは2人の関係を冗談めかして、「僕は彼の音楽を盗む。そして彼は僕の恋人を盗む」と話していたそうです。こんな冗談を言えるくらい、お互いを認め合っていたのだと思います。
次の世代へ、そしてロックまで

独奏という発想、澄んだ音色、そして超絶的に速いピカード(人差し指と中指で交互に弾く速弾き)。これに並ぶギタリストはなかなかいないと言われています。
若き日のパコ・デ・ルシアは、ニューヨークでサビーカスの演奏を目の前で聞きました。「一音も外さない」と、何度も繰り返していたと伝えられています。そしてサビーカスは、そのパコに「ほかの人のまねはやめて、自分の曲を作りなさい」と勧めたそうです。もしこの一言がなかったら、ぼくたちの知っているパコ・デ・ルシアはいなかったかもしれません。
もうひとつ、ぼくの大好きなエピソードがあります。サビーカスは、ロックのアルバムも出しているんです。1970年発売の『ロック・エンカウンター』。エレキギターの奏者と組んで、ドラムやオルガン、ベースの入ったバンドでフラメンコを弾いています。伝統の真ん中にいた大巨匠が、60歳近くになってロックと真剣勝負。いちばん新しいことをやる人だったのかもしれません。
長い亡命生活の末、サビーカスがスペインの土地を踏んだのは1967年のことでした。晩年まで舞台に立ち続け、1990年4月、ニューヨークで息を引き取ります。78歳でした。
ギター1本で舞台に立つ。いまでは当たり前のこの形も、サビーカスが道を開いてくれたおかげだと思うと、ギターを弾く者として本当に頭が下がります。
今日の動画を見たあとに
- □ サビーカスの演奏を1曲、探して聞いてみた
- □ 早いフレーズを、スロー再生で1音ずつ聞いてみた
- □ 印象に残ったエピソードを、コメントで教えた
この記事の内容を、もっと深く
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