こんにちは!
フラメンコギター池川です。
先生に「歌を聴いておいてね」と言われたこと、ありませんか。
でも、何を聴けばいいのか、さっぱり分からない。歌詞カードを見ても、いまどこを歌っているのか見失う。カタカナを見ても、その通りに聞こえない。
踊り手さん
池川今日は、歌が分かるようになる3つの入口をお話しします。踊る人にも、弾く人にも役に立つ話です。
▼ 動画でも話しています
実際のソレアの歌詞を使って、3つの入口を順番に確かめています。再生しながら読んでも、先に見てからでも大丈夫です。記事はこの下に続きます。
入口1 歌は「行」ではなく「ひと息のまとまり」で進む

見本に、ソレアの歌詞を3行だけ用意しました。ソレアは「フラメンコの母」と呼ばれる曲種です。
- 1行目 レ・ディホ、エル・ティエンポ、アル・ケレール(「時」が「恋」に言った)
- 2行目 エサ・ソベルビア、ケ・ティエネス(おまえのその、思い上がりは)
- 3行目 ジョ、テ・ラ・カスティガレ(私が、こらしめてやる)
時と恋を、人のように見立てた歌です。どんなに燃え上がった恋も、時がたてば冷めていく。たった3行で、人生の真理を言い切っているんですね。ちなみに、この歌の言葉のことをレトラと呼びます。
さて、歌詞カードを上から1行ずつ目で追いながら聴いていませんか。実は、これで見失ってしまう人がとても多いんです。
理由は、歌い手が1行ずつ歌っているわけではないから。歌い手は、ひと息で歌える所までを、ひとつのまとまりとして歌います。このまとまりを「テルシオ」と呼びます。歌い終えると息を吸い、その間はギターが短くつないでくれます。
たとえば、名唱として知られるフェルナンダ・デ・ウトレーラの歌い方の一例では、さっきの3行はこうなります。
- 1行目(語順を入れかえて歌い始める)
- 1行目をもう一度
- 2行目
- 3行目で着地
3行の歌詞が、4つのまとまりになりました。歌詞の1行が、ひと息とは限らないんです。
好きな歌を1曲かけて、歌い手が息を吸う所で、指を1本ずつ折ってみてください。拍を数えるかわりに、まとまりを数えるんです。
まとまりのずれ方には、決まった3つの形がある

歌詞と歌のまとまりがずれるパターンには、決まった形があります。
同じ行をくり返す
さっきのソレアがこれでした。1行目を2回歌っています。
順番を入れかえる
言葉の順番を入れかえて歌い始めることがあります。歌詞カードと最初の言葉が違っても、慌てなくて大丈夫です。
2つの行をひと息で歌う
逆に、2行をまとめて一気に歌うこともあります。
この3つを知っておくだけで、「あれ、どこ?」が「ああ、くり返したのね」に変わります。
入口2 歌の終わりには、3つのサインがある

踊り手さん踊る人も、弾く人も、どちらもよくあることです。でも大丈夫。終わりにはちゃんと3つのサインがあります。
1 メロディが下りて着地する
多くの曲種で、歌の最後の行は低い所へ下りて、落ち着いて終わります。さっきのソレアなら、3行目の「ジョ、テ・ラ・カスティガレ」で、メロディが低く下りて落ち着きます。
2 囃し言葉が来る
曲種によっては、決まった言葉が出てきたら、それが終わりの合図になります。スペイン語では「エストリビージョ」。たとえばガロティンなら「アル・ガロティン、アル・ガロタン」です。
3 ギターが締めの和音を弾く
ソレア、アレグリアス、ブレリアのような12拍の曲種では、10拍目に着地することが多いんです。ギターで伴奏する人は、この3つ目をとくに大事にしてください。ぼくが主宰する「週末フラメンコギタリスト養成塾」でも、歌の終わりを聴いて伴奏を拾うのは大事なテーマです。
サインが分かると、「たぶん終わり」が「ここで終わり」に変わります。
よくある質問
Q スペイン語が分からなくても、歌は聴けるようになりますか?
はい、大丈夫です。まとまりと終わりのサインは、言葉が分からなくても耳で見つけられます。
Q 踊りやギターだけの人も、歌を聴く必要はありますか?
あります。歌はフラメンコの中でいちばん古くからあり、踊りもギターも歌に寄りそうものだからです。歌の仕組みが少し分かるだけで、踊るのも弾くのもぐっと楽になります。
入口3 カタカナ通りに聞こえないのは「アンダルシアのなまり」

カタカナを見て、その通りに声に出してみたら、聞こえ方と合わない。これも、あなたの耳のせいではありません。
フラメンコは、スペイン南部アンダルシア地方のなまりで歌われます。日本で言えば方言のようなもの。いちばんの特徴は、言葉の最後の音が弱くなったり、消えたりすることです。
- 1行目の「ケレール」は、最後の音がほとんど聞こえず「ケレー」に近く聞こえる
- 2行目の「ティエネス」は、最後の音が消えて「ティエネ」に近く聞こえる
- 3行目の「カスティガレ」は、途中の音が息のようなハ行に近くなり「カハティガレ」のように聞こえる
「消える音」と「ハ行に変わる音」。この2つを知っているだけで、聞こえ方がぐっと近づきます。歌えなくても大丈夫。いまどの言葉を歌っているか、それが分かれば十分です。
今日の3つの入口
- □ 歌は「行」ではなく「ひと息のまとまり」で進む
- □ 終わりには「メロディ・囃し言葉・ギター」の3つのサインがある
- □ カタカナ通りに聞こえないのは、アンダルシアのなまり
ぼくもギタリストとして長く歌の伴奏をしてきましたが、歌詞の意味を調べて分かったとき、同じ歌がまるで違って聞こえました。歌い手が何を思って声を出しているのか、少しだけ見えてくるんです。
歌の言葉を1行ずつ知りたい方のために、18の曲種のレトラ(歌詞)を、原語・カタカナ・訳・単語の意味でまとめた本を作りました。くわしくは「フラメンコのレトラ(歌詞)が分かる本」のページをご覧ください。
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